のらねこの気まま暮らし

技術系だけど、Qiita向きではないポエムとかを書くめったに更新されないヤツ

黒歴史第1話

公開いたら絶対後悔する。
しばらくした後に記事を消すか、ブログを消すかする。

とか思ったけど、どうせ闇に消え去るならネタにしてしまおうということで。
晒しあげ。

リファクタリングしてないので、思いてガーっと書いたそのままの文章。
続くかわからない。





Another worlds

8月12日。
夏休みも半ばを迎えようとした頃、俺は海に行こうと提案した。
理由は単純。残り半年の僅かな期間に高校生らしい思い出の一つでも残そうと思ったのだ。
俺達の住んでいる桜深の街は四方が山に囲まれていて海なんて山上りでもしない限り見えない。さらに厄介なことに、その山がとんでもなく危険なのだ。これは噂だが、山には狼や熊がウロウロしているらしく、地元民でもなかなか近寄らない。いや俺も地元民だけど。
桜深の中心市街は都会と言っても良いくらいには発展しているのに対して、外に向かえば外に向かうほど田舎なのだ。まさに陸の孤島。それでも俺達は大した不満も抱えず、外の世界に興味を示すでもなく、ただ平穏な日々を満喫していた。
しかし、正直言って俺はそんな日々に退屈していた。
与えられる平穏に対した反抗心。思春期特有のアレだ。
そんな俺を尻目にクラスメイトや友達はこんな退屈な日々に満足しているという。正直悔しい。俺を置いて先に大人になりやがって、というつまらない意地を張る。表には出さないけど。昔は一緒に馬鹿をやっていた奴も今ではすっかりおとなしくなっちまって、本当に世界に一人で取り残されたような寂しさを感じる。
だから、というわけではないが。
俺は退屈な夏休みを共に過ごした奴らを誘ったのだ、海へ行こう、と。
今思えば、これもつまらない意地だったのかもしれない。
大学や就職先、将来について話しあうアイツらを見ていて、今しか見ていない俺の、ちっぽけな対抗心だったのかもしれない。
結果は散々だった。
俺の言葉を聞いた奴らは、ぽかんと口を開いて、まさに「なに言っているんだこいつは」と言った表情をそろってする。悔しい以上に恥ずかしかった。どうせ俺は子供だ。その夜はそのまま一人で徹カラだった。翌日は爆睡した。友達との約束をすっぽかして爆睡していた。
いや、そんなことはどうでもいい。謝罪の代わりに小遣いの殆どを使いきってしまって月末まで遊びに行くどころか電車すら乗れないくらい金がないとか本当にどうでもいい。
第一、海に向かうならどうせ山を超えなけりゃならないわけだし、そもそも山に向かうならチャリ一台あれば十分だ。
そう、俺は海に行こうとしている。そのために悲鳴を上げるチャリをこいで、高校を超えて、だだっ広い田んぼの道を抜けて、林の細道を通りぬけ、目指す山の麓まで来ているのだ。
馬鹿だ、とアイツらは笑うだろう。呆れるかもしれない。
それでも結構。俺は馬鹿だ。退屈な日々なんてゴメンだと一人開拓されてない山に突っ込もうとする厨ニの馬鹿だ。
それでもいい。どうしようもないくらい、俺は外の世界が見たかった。
世界は広いんだ。こんなちっぽけで閉鎖的な街になんてこもれない。
今しかない、と思ったから、今俺は此処にいる。
俺の目の前には、広大な森と、高くそびえる山がある。
何処が山頂だかは知らない。けれど、誰も入らなかったなんてことはないだろう。
現代の日本において、未開の地など存在しない。誰かしら足を踏み入れている。桜深はたしかに辺境、陸の孤島だが、かと言って鎖国しているわけではない。定期的な行き来がされているはずだ。だから山を超えられないわけがない!
「よし・・・ッ 俺は行くぞ!!」
「よしっ じゃねぇよ」
俺がチャリを捨て、大いなる一歩を踏み出そうとしたその時、唐突な衝撃が俺の背中を貫いた。
「ご―――ふうッ」
目の前には深い森、そしてその手間には立入禁止と張り紙された、金網がある。勢いそのままに金網に激突。網でも顔面をぶち当てると痛いんだぜ・・・。
「ったく、何をそんなににやにやしているのかと思えば、何森に入ろうとしているんだこの馬鹿。立ち入り禁止の張り紙を堂々と無視しやがってこの馬鹿。日本語読めないのかてめぇはこの馬鹿。間抜け」
その声には聞き覚えがあった。嫌ってほどあった。金網に激突した全身よりも頭が痛くなってくる。ぶつけたからじゃない、嫌なヤツに見つかった、という内部的な頭痛だ。へでいくの方だ。
人をいきなり足蹴(たぶん)にした奴は可憐とすら言える綺麗な声で、俺を踏みにじる。
「俺、海に行くんだ…! とか何とか言っていたとかえでが言ってたが、まさか本気で山越えする気だったのか。馬鹿じゃねぇの。いや馬鹿だな。ていうか馬鹿っつったな。もう馬鹿がゲシュタルト崩壊するレベルで馬鹿だな。海に行くとかいって山で死ぬ馬鹿だな。おい馬鹿、聞いてんのか?」
ええ聞こえてますよ耳ふさぎたい。
俺は打ち付けた鼻をさすりながら、仕方なく、否応なく、ぎぎぎ、と音がするんじゃないかと自分で思うくらいぎこちなく、そいつを振り返る。
視線は下、そいつの身長は俺の胸ほどしかない。
ノースリーブの白いシャツに黒いホットパンツ。細い足にぴったりとしたニーソックス。長いはずのそいつの黒髪は、いまはハンチング帽の中に収まっているらしい。
夏らしい、少女の服装だ。控えめな胸がいかにも少女らしい。
「うごっ」
目の前の少女の全身をくまなく観察した、直後にずどん、と腹部に強烈な衝撃が走った。
こいつ……っまた蹴りやがった。
もはや涙目どころの騒ぎではない。目から汗を流しながら腹を抑えて灼熱のアスファルトに転げる俺の姿はさぞ滑稽だろう。
恨みがましく顔を上げれば、猛禽類のように鋭い左目が俺を射ぬく。
右目は隠れて見えない。長い前髪に隠れて、白い眼帯が覗く。怖い。すごい怖い。整った綺麗な顔立ちの相まって本当に怖い。現実離れして怖い。
「で? 本当にお前、何してんの。理由もなくその境界を超える馬鹿はできれば存在してほしくないんだけど」
これが殺意か、と思わせる程の眼光で俺を睨みつける少女は、一応同じ学生。
名前を、深冬綺梨という。


「は? 本気で海に行こうとしてたのかお前」
本気じゃなかったらなんだというのだ、と返したい。蹴られるので黙っている。
ちなみにだが、こいつとの面識はそんなに多くない。知り合いの知り合いくらいの間柄で、できれば関わりたくない、という印象があるくらいの、顔見知りですらない。彼女はどうやら俺を知っているらしいが、俺は知らん。関わりたくない。
関わりたくなかった、が今となっては正しい表現なのだが。
深冬の目が「答えなければその頭踏むぞ」と言わんばかりに睨みつけてきたので、俺はおとなしく事の発端を説明した。つまり、一人で海に行こうとした、と。
「ハイ。ソウデス。ボクは寂しさのあまり一人で海に言って馬鹿野郎と叫ぶつもりでした。今は反省しています。本当にごめんなさびッ」
おとなしく頭を下げたら踏みつけられた。額が灼熱のアスファルトに以下略。
もはや俺の姿は土下座をした上に少女に頭を踏みつけられるというあられもない格好である。知り合いに見られたら終わる。人生が終わる。
「呆れて言葉がでてこねぇ。なんで私がこんな奴に関わらなきゃなんねーんだ」
それはこっちのセリフだ、と反論しようと頭をあげたら再び踏まれる。ぐ、とかぎゃ、とかもはや言葉にならない。額の感覚がもう殆ど無い。おいこれ大丈夫か?
深冬にとっては俺なんぞ踏み台程度の価値もないらしく、ため息をこぼしながら、パチン、と携帯を開いてカチカチと操作をしている。くそ、足をどけろを足を。後頭部がじゃりじゃりしてるぞこら。
「あーもしもし、かえで? お前の知り合い見つけたぞ。場所はわかるな? 五分で来い」
は? ちょっとまてなんつった今。
かえで、とはおそらく巻坂かえでのことだろう。俺の誘いに呆けた返事を返した奴の一人で深冬についてまわる後輩。なんであいつの名前が出てくる。しかも俺を探している風味に。しかも場所も告げずにわかるな? とか五分で来いとか理不尽すぎじゃね? なんなの深冬って。何様? ていうかいい加減おでこがやばいんですけどォォォオ
「おっと、忘れてた」
ふ、と唐突に後頭部の重みが消える。俺は起き上がった。背筋に全力を注ぐかのごとく、鋭いバネのように、がばっと。
「うお、海老かよ」海老じゃねぇよ人間だよ!
とりあえず俺は立ち上がる。頭を踏まれるのはもう金輪際ごめんだし、なにより見下されていると心が折れそうになる。どんだけおっかなく見えても、俺が立ち上がってしまえば背の小さな少女に過ぎないのだ。恐れるに足らない。腹を蹴られて膝を折ったわけだけどそんなことは忘れた。
「一体どういうつもりだよ。なんで巻坂が俺を探してるみたいな流れになってんだよ。まさか深冬、おまえ俺をつけて――」
三度目の衝撃は悲鳴を上げる余地がなかった。
「んなこた巻坂に聞けよ。私は知らん。お前を見つけたのも偶然だ。……ていうか、なんでお前私の名前知ってるんだ。キモイ」
物理的にも精神的にも容赦無い暴力を振るうなよ。もういいよ。踏めよ。
「だいたい、高校生にもなって海に行こうぜ、は無いだろ。リア充かよ。挙句に携帯繋がらないわ約束すっぽかすわ巻坂にたかられる私の気にもなれっての」
理由知ってるじゃん。約束すっぽかしたわけじゃないもん。直前だけどちゃんとメールしたもん。俺、旅に出るって言ったもん。あ、それが原因か。
「あ? なんだ華麗に決まりすぎたか? 返事がない、ただの屍か。捨ておいてもいいかな」
「屍じゃねぇ……よっ お前に蹴られた腹がいてぇんだよ……っ」
もはや涙声である。大の男が、情けない……っ
「ちっ」
なんで舌打ちした? なんで今舌打ちしたんだおい!?
腹を抱えて反論の一つでも、と思った時、遠くからエンジン音が聞こえてきた。
バイク……? 珍しいな、こんな田舎道を原付が走るなんて。
いや、違う。偶然ではないだろう。はっとなって顔をあげる。
原付の轟く音は、次第に近づいてくる。こんな田舎だ。音なんて無いに等しい。その静寂を、豪快な騒音が塗りつぶしていく。
その姿が見えた時には、思わず背筋が凍りそうになった。
あれは――まさか――
その原付は、華麗なターンを決めて俺と深冬の手前で停車する。
「五分、守りましたよ、先輩!!」
後部座席に乗っていた少女は、そう叫ぶなり深冬に飛びついた。
が、深冬の拳がそれを遮る。
「暑苦しい」
「ぎゃふん」
頭を抑えて、一瞬とまった少女はしかしめげずに再度深冬へ飛びつく。
「せ・ん・ぱ・い」
それはまさに、ひまわりのような笑顔だった。
さすがの深冬もため息混じりにその抱擁を受けいれ、それは仲睦まじいていうかもはや百合だな。ゆりゆりである。
「まさかこんなところにいたとは、本当に予想外だったよ、麻木」
原付にまたがったまま声をかけてきたのは、仲間の一人、植木だ。
ちなみに麻木は俺だ。麻木一馬が俺の名前だ。ようやく言えた……!
「いきなり、旅に出るは無いですよ。焦るどころか爆笑です。今年一番のギャグですよ麻木先輩」
「ギャグじゃねぇよふざけんな巻坂!」
「本当にね、笑えない冗談だ。まさか宿題合宿の話をすっぽかして山登りとは、いい度胸だよね」
「いや、それは、その……」
「なんだお前、勉強から逃げ出したのか。この情弱め」深冬は黙れよ!
「残念ながら深冬先輩より成績いいんですよ、腹立たしいことに」
「は? まじで? こんな馬鹿っぽい面してんのに?」
「まじです。大マジ。期末試験トップ10の掲載欄に入ってましたもん」
「なんだ勉強のしすぎで壊れたのか。同情するわ」
「お前らいい加減にしろよ本気で泣くぞ!!」威張ることではないよ、俺。
「そうそう、その辺にしてやってくれ」
そう俺を罵る二人に声をかけた植木がこの時ばかりは天使のようだった。
「こいつにはこれから俺たちの宿題やってもらわなきゃなんないんだから」
天使ってのは白昼夢でしたね!!
「あ、深冬先輩も麻木先輩の宿題写します?」
「いや。私はもう終わってるから」
「さすがです!」
「だったら深冬の宿題写せばいいだろ!? 俺を解放しろ!!」
「だーめっ」「宿題くらい自分でやれよ情弱」
あれ、おかしいな。目から汗が・・・
「ほら、いくよ麻木」
が、と襟首を引っ張られたかと思ったら、いつのまにか俺は植木の後ろの座席に座っていた。
こいつ、なんて怪力してやがる……インテリ眼鏡で細身の外観からはとても想像できない手際の、ってちがああああう。
「なんでだ! 俺は宿題なんてやらない、やりたくないんだ!!」
「それじゃ先輩、ご一緒に帰りましょっ」
「まあ用事も終わったしな。さっさと帰るか」
「それじゃ、ちゃんと捕まっててね、麻木」
「いや、ちょ、ちょおおおおお」
俺の悲鳴は植木の原付が奏でる音にかき消された。


バイクに振っていた手をかえでが下ろす。すでに二人の影は見えない。
「で、どうでした、先輩?」
「どうもこうも、お前の予想通りアタリだな、あれは」
そう、吐き捨てた深冬綺梨は自らの右目を覆う眼帯を叩く。
「暗示が切れているのは間違いない。門が開きかけてる証拠だ。それに、殺す気で蹴飛ばしたのにピンピンしてやがった。だいぶ侵食されてんな」
物騒な言葉ではあるが、かえでは深刻に受け止める。
「やっぱり、先輩に頼んでよかったです。私じゃ、たぶん見つけられなかったですし。それに」
間に合わなかったかもしれない。かえでの言いたいことは、わかっていた。
「今夜合宿だって?」
「先輩も泊まりに来ますか!?」
「やだ。でも場合によっては、狩りにいくかもしれない」
ですよね、とかえでは頷く。その言葉の意味を理解できるのは、その現場に立ち会ったものしかわからない。
「でしたら、私はいつもどおり先輩のサポートに回りますよ!」
「関わんな、つってもお前はどうせ首つっこむしな」
「今回だって私から持ちかけた話なんです。美月さんにも私が話通しときますよ」
「はあ。またタダ働きか」
「いや、ご飯くらいならおごりますよ!?」
立ち去った少女たちの背後で、金網がざわりと揺れた。